今井通子会長から

CURRENTTOPICS （今井通子会長から）

アイガー北壁の日本直登ルートの開拓50周年記念展示　　　　

1969年に今井通子会長たち登山隊が達成した偉業、アイガー北壁の日本直登ルートの開拓50周年記念展示が行われます。それに先だち、今井会長は、6月1日、現地でのオープニングセレモニーに出席いたしました。
　会場：グリンデルワルト博物館（スイス）　
　会期：2019年6月2日～10月13日（博物館は冬期は閉鎖します）
　　　　グリンデルワルト博物館企画展のチラシ.pdf

今井通子会長　NHKラジオ第2放送「こころをよむ」の講師として出演します
　『登山のススメ』というタイトルで10月から12月の13回シリーズです。　

放送日(全13回): 2018年　
　　　　　　10月　7，14，21，28日（日）
　　　　　　11月　4，11，18，25日（日）
　　　　　　12月　2，9，16，23，30日（日）
放送時間：ラジオ第２放送　毎週日曜日　AM6時45分～AM 7時25分（40分）
再放送　：ラジオ第２放送　毎週土曜日　PM6時からPM 6時40分

☆真面目に聞きたい方のためには、テキストもあります。

　NHKテキスト『登山のススメ　医師として、登山家として』
　　　　　　　発売日：9月25日
　　　　　　　定価　：823円（税込み）

※書店にない場合は、下記へご注文ください。
　NHK出版お客様注文センター　TEL：０５７０（０００）３２１

自然環境

　講演テーマは、「山が教えてくれたもの～健康で生きがいに満ちたシニアライフを送るために～」で、一時間半の話をしました。いつものテーマの中の一つでしたし、私としては、最近は先進諸国のみならず諸外国での自然界が、種々の意味で、安全、便利に楽しめるようになって来ている、自然の中で活動する地元の人々のスキルが非常に向上している等々で、日本の状況が遅れている事に力点を置いた話のつもりでしたが、主催者側から、“大部分の人が、山は登山するもの、里山は手入れするために行くもの、という意識ですが、今日のお話は、もっと別の世界があるのだよと知らせていただけたと思います。”という御感想がありました。人間も含め、生きるために様々な恩恵を受けられる自然環境に対し、一つ一番主義的な日本では自然の使い方まで一つ一つ定めてしまう考え方があることにビックリ。まだまだ知られていない機能や法則いっぱいの自然環境を昔の日本の人々や他国の人々のようにもっと貪欲に発見し、愛で、大切にするために、私たちはこれからも自然界へ出掛け、何かを発見したり、そこで出会った人々の自然環境に対する風俗習慣や共生の仕方を受け止め、自分達の生活と比較、検討、取捨選択し取り入れる等、これからも巾の広がる体験を積み国際レベルを保ちましょう。

　今年（2016年）から８月１１日が、全国「山の日」という名の国民の祝日になりました。これにより、現在、日本にある祝祭日数は１６日です。山の日を作りたいという山岳関係者の動きは、海の日(7月第3日曜日）が出来るずっと前(1961年〜）からありましたが、盛り上がっては消え、又、復活しの繰り返しでした。2010年（今回）は、山岳５団体(日本山岳会、日本山岳協会、日本勤労者山岳連盟、日本山岳ガイド協会、日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト）が、当初一丸となって「山の日」制定協議会を発足させ、制定を2014年、そして、今年からの施行へと繋げることが出来ました。
　その間の動きは、まずは国会議員さん達全党派120名前後の方々はじめ、行政、県知事会、市町村会、その他、多くの団体及び個人が種々の事柄に当たり力を尽くした結果です。クラブ・ベルソーの皆様には、裏話も含め、お会いした時に詳しく話します。
　という訳で、今回から全国「山の日」施行記念として、私の山への思いなどで綴るシリーズを掲載します。

「山の日」施行記念シリーズ２　家族で行くヨーロッパの山遊び文化　

　子どものころ、両親は、私たちに、ふたつの生活の場を与えてくれました。
　平日、都会にいるときは、自宅で生活し、学校へ通って学びました。休日、両親は私たちを連れて、天気のいい日は近隣の野山へ行き、悪天の日は、映画館やレストランへ出かけ、夏・冬休みになると、山や海の家で日常生活をさせました。羨ましい、なんと贅沢な、と他人様からはいわれますが、私はちょっと違うと思っています。三女一男だった私の家では、例えば、私、妹、妹のはいた足袋のお下がりを弟がはいていましたし、ハンカチ一枚、買ってもらうにも半年は待たされました。兄弟姉妹がいなければ全部自分の物になるのにと恨んだことが何度もありましたから。今思うと両親の価値観が、世間とは異なっていたということでしょう。
　1967年夏、私は、はじめ欧州アルプス登山に行きました。日本では、山イコール危険、遭難とマスコミが騒ぎ立てていた真っ最中でしたが、アルプス山脈の山里では、老若男女を問わず、人々が大いにバカンスを楽しんでいました。
　人々はその経済力にあわせてか、キャンプ(キャンピングカーでキャンプ場は満員)、ペンション、別荘、そして、大富豪がホテル・・・と、それぞれの宿泊場に出かけていました。もちろん、キャンプ場へしか行けなかった私たちは、キャンプ生活をしている人々のようすを見る機会がもっとも多かったわけです。彼らはそのほとんどが家族連れで、親子３代いっしょの家族も少なくはありませんでした。
　彼らは、朝、全員でテントを離れました。ある家族は、小高い丘の上まで皆でいっしょに行き、お爺さんとお婆さんに、その丘のベンチの所で別れを告げ、お父さん、お母さん、子どもたちがさらに上部へ向かいます。湖の所でお母さんと末娘が留まり、氷河に向かってお父さんと上の子どもたちがさらに歩いていくという具合です。また、ある家族は、山に囲まれた氷河のあたりを超高齢のお婆さんの両側に、高校生ぐらいのお嬢さんふたりが付き添い、後から両親が歩きます。家族単位ばかりではなく、３代、数家族の一族団体という人々にも会いました。
　モンテローザに登りに行ったときには、老夫婦と抜きつ抜かれつでした。スキーを担いで氷河上を登って来た彼らは、岩場の手前にスキーをデポし、山頂では抱き合い、帰路の氷河はスキーで滑り降りていきました。彼らは皆、テント場に長逗留していました。私たちのように、目的の山を登ると次の登山基地に移動するような慌ただしさはなく、日によっては、一日中、テント場にいて水着姿で歩いていたり、洗濯物を干したり、どこで採って来たのか、キノコを薄切りにして、網の上に並べていたりーそんな日のお爺さんやお婆さんは、ロッキングチェアーで寛ぎ、子どもたちは、ボール遊びに興じていました。
　私はこの欧州アルプス登山で、カルチャーショックを受けました。日本では山へ行くというと、山頂へ登りに行くというイメージだった時代に、ヨーロッパの人々は、山へ遊びに行く、いいえ、極端ないい方をすれば、山で生活していたのです。それも、老若男女を問わず、自らの持つ能力の範囲で、自然と融合し、自然の中でできるすべてのことを生活の一部のように取り込んで。
　さきほど、私は「両親は私たちに、ふたつの生活の場を与えてくれました」と書きましたが、ふたつの生活の場の意味のひとつは、平日と休日を分け、平日は、家族といえども、それぞれが、社会的にすべきことをそれぞれの場でおこない、家に戻ったら、家族という社会の中で共同生活をする。もうひとつは休日には、自然界、もしくは都会で共に遊ぶということです。この場合、必ずしも山登りを目的に遊ぶだけのために自然の中に出かけるのではなく、自然の中でできることを生活の一部として取り入れるというふたつの意味を持っていたのですが、後者はまさに、ヨーロッパアルプスの山腹で見た人々の行動とおんなじでした。
　私はもちろん、日本生まれの日本育ち、日本社会の風俗習慣の中で生きてきた人間ですから、諸外国へ出かけたとき、他のことではやはり日本になじんでいますし、日本の風俗習慣を肯定しています。けれど、家の中だけが住空間で、一歩外に出れば、庭であろうと公園であろうと、他の目を気にしたり何かの目的だけで出て行ったりという発想にはどうもついて行けません。
　キャンプ場で生活していたヨーロッパの人々を見ていたら、キャンプ場も、そしてそのさらに先のアルプスの山々でさえ、彼らにとっては、家庭生活の延長線上にある住空間のように見え、それはまた懐かしい実家での生活における、両親の考え方と同じように思えたのです。
　すなわち、私にとっての山、または自然とは、ヒトが自然の子である以上、都会と対峙する特別な場所ではなく、どこまでも自分たちが入って行って、その場で許される（自然であることを人間が壊さない、もしくは、自然に対して最小限の負荷しかかけない）範囲内で生活する場、住空間のひとつなのだということです。
　という訳で「山の日」の祝日が制定された事をきっかけに、全ての人々が山を自分の家、家族のように慈しみ、憩いの場として気持ち良く住めるように大切に扱ってくだされば良いなと思っています。

「山の日」施行記念シリーズ１

　じつは私はアルピニストではなく、ナチュラリストだろうといわれたことがあります。人間社会の中では、時と場合によっては、ジャンル分けは、非常に大切なことですし、お互い話が早く、解りやすいことも確かでしょう。
　とはいっても私は、アルピニストと思われようが、ナチュラリストと呼ばれようが、相手が自然の場合は、どちらでもいいと思っています。だって自然界は私たちヒト(生物学的に人類のこと）にとっては生みの親であり、私たち人間が社会をつくるずっと以前から存在していたわけですから、子どもが親と付き合うとき、ジャンル別の使い方をするほうがおかしいと思っているのです。
　ですから、皆さまには、アルピニストなのかナチュラリストなのかどっちでもいいという私の自然界だけは、最初に解っていただいたほうがいいかもしれません。
　私にとっての山は、陸上の自然界すべてです。
　昔、ある人が「海から一歩でも陸に向かって歩けばだいたい登り坂だよね。ということは、みんな、山登りっていうことじゃない」といいました。
　子どもの頃から山や海、川で遊んでいた私は、他人が《山行》というとき、必ずといってよいほど、それは、下界から突出した《山》の頂を目指すことに限し使っていたことに疑問を抱いていました。彼らの会話の中では、後に言葉として市民権を得た、バード・ウォッチングや、フラワーウォッチング、ハイキング、ピクニック、キャンピングなどなど、山へ行けば、山頂へ行くとしてもそのあいだに必ず入ってくるイベントには、留意がなされていなかったような気がします。
　また、そうしたイベントが市民権を得てからも、一つの行動には一つの目的、という分け方が先行しているようで、同じ《山》へ行くのに、まるで別々のこと、目的が違うのだから相容れない基準があって、「お互いまったく違う世界のもの同士」的な雰囲気さえありました。
　一方、林業関係者の方々が、《山仕事》といわれるときの山の場合は、それは必ずしも高山は示さず、平地でも森林内での作業は、《山仕事》です。
　山ってどこのこと？山へ行くっていったいなんなの？私にとって、この疑問は前述したある人の言葉で一気に吹っ切れました。そうだよね。陸上の自然界はすべて《山》なんだ。ヒトがその《山》にかかわるときは、そのすべてが、《山行》、《山登り》なんだ。私は、そう思うことにしたのです。
　陸上の自然界にふれた事の無いヒトなんていませんよね。ですから「山の日」はみんなのための日だと思います。

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今井通子会長　NHKラジオ第2放送「こころをよむ」の講師として出演します
　『登山のススメ』というタイトルで10月から12月の13回シリーズです。

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「山の日」施行記念シリーズ２　家族で行くヨーロッパの山遊び文化

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